抗生物質が効かない薬剤耐性菌が増えています。
薬剤耐性はどんなこと
今月の感染症の小部屋は抗生物質と薬剤耐性のお話しをします。
なんだか、聞いただけで難しそうは話ですが、できるだけわかりやすく解説します。
皆さんが風邪をひいて病院に行くと、抗生物質をもらうと思います。抗生物質は感染症の治療以外でも使うことがあるので、最近では感染症の治療に使う抗生物質だけをさして「抗菌薬」と呼ばれています。
薬剤耐性とはこの抗菌薬が効かなくなることです。もともと抗菌薬には、菌を殺したり、菌が増えることを抑える力があります。人類が最初に発見したペニシリンは20世紀の10大発見の一つとされています。
ペニシリンの発見から、たくさんの種類の抗菌薬が作られてきました。そのおかげで多くの感染症が治療できるようになりました。例えば、第二次世界大戦の頃には日本では結核に感染して多くの人が命を落としていました。
ところが、ストレプトマイシンという抗菌薬の発見によって、これまで治療できなかった多くの結核の患者さんの命を助けることができるようになりました。私が指導を受けた大学教授も若い時には結核の治療薬の研究をされていました。
ところが、抗菌薬で結核は治る病気となって、その後は結核の治療を研究しようと思うお医者さんはいなくなってしまいました。その当時は感染症はなんでも抗菌薬で治すことができるので、感染症の研究などしても意味がないとまで言われたくらいです。
ところが、そうではありませんでした。
それが、薬剤耐性(AMR)の始まりでした。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症