今は海外旅行に行けませんが、輸入感染症
風土病的なカビの病気もあります。輸入真菌症
輸入感染症の原因微生物には細菌やウイルスなどが一般的ですが、
時に、真菌(カビ)による輸入感染症も見られます。それらは輸入真菌症と呼ばれ、わが国のグローバル化に伴って、最近増加傾向にあります。
その輸入真菌症のなかで、コクシジオイデス症とヒストプラズマ症を取り上げます。
まず、コクシジオイデス症は米国西南部(カリフォルニア、アリゾナ、テキサス、ネバダ、ユタの諸州)、メキシコ、アルゼンチン、ベネズエラなどの地域で風土病として発生します。
これらの地域の乾燥した砂漠地帯に多く、原因となる真菌はCoccidioides immitisと呼ばれます。
このカビが混じっている砂埃を、ヒトが吸い込むことによって、肺に病気を起こします。
このコクシジオイデス症を起こすカビは病原性も感染力も強いため、注意が必要です。
肺に病気を作るため、レントゲンやCTなどの検査で発見されることが多いと言われています。
もう一つの輸入真菌症はヒストプラズマ症です。
これは米国のミシシッピ川流域に多い輸入真菌症です。この地域に観光や仕事で訪れた人に感染する病気です。
原因となるカビはHistoplasma capsulatum と呼ばれています。
ヒストプラズマ症も環境中にいるカビを人が吸い込むことによって、肺に病気を起こします。
肺の病気でとどまれば命に関わることは少ないとされていますが、全身に病気が広がると時に死亡することがあります。
これらの輸入真菌症は、抗真菌薬と呼ばれる薬で治療します。
また、人から人に感染することはありませんが、真菌を検査で培養して、それを吸い込むことによって感染する危険があります。
検査をする時には十分に注意して、もしこれらの輸入真菌症が疑われる時には、特別な研究機関で培養検査をして頂くようにしてください。
次回は蚊から感染する輸入感染症として、マラリアとデング熱を取り上げます。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症