新型コロナウイルス感染症。基本的なことを抑えましょう(第3回)
新型コロナウイルスの変異株は何が違うか
新型コロナウイルスは1本鎖RNAウイルスで、ウイルス学的にもある一定の確率で、遺伝子変異を起こします。
その遺伝子変異によって、ウイルスの重要な構成タンパク質が変化した場合は、感染力や病原性、また抗原としての認識されやすさなどの変化が生じます。
コロナウイルスではウイルス表面にあるスパイクタンパクと呼ばれる構成成分に変化が起こり、変異がないウイルスとの違いが生じます。
今回の新型コロナウイルスの変異株もこのスパイクタンパクの一部のアミノ酸が置き換わったものと考えられています。
これまでに、スパイクタンパクの501番目のアミノ酸、および484番目のアミノ酸が置き換わった変異株が世界中で確認されています。
それぞれ、発見された国、流行した国の名前をとって、英国型、ブラジル型、南アフリカ型などと呼ばれています。
英国型はN501Yと呼ばれ、501番目のアミノ酸のみが変異していますが、ブラジル型と南アフリカ型は、同時にE484Kと呼ばれる484番目のアミノ酸も変異しています。
このブラジル型と南アフリカ型を明確に区別するには、全遺伝子配列を決定しなければなりません。
それと特定の国の名前はついていませんが、E484Kのみが変異したウイルスが確認されています。
では、今N501Yと呼ばれる英国型の変異株は、従来のウイルスとどこが違うのでしょうか。
これまでの英国を中心とした疫学的、臨床的研究の結果からは、感染力は明らかに強くなっています。
原因として、この変異株に感染した患者さんでは、従来の株に感染した患者さんに比べて、明らかに多くのウイルスを排出することがわかりました。
そのため、疫学的には1人の患者さんから、より多くの患者さんに感染させることがあるとされています。
しかし、最新の臨床研究では英国型の変異株に感染した患者さんの死亡率や重症化率は従来のウイルスとほぼ同じという報告がなされています。
E484Kの変異株については、従来のウイルスとの違いはあまり明確になっていません。
試験管内では、従来のウイルスに対する抗体を加えても、増殖の抑制は弱くなることが確認されています。
このことからワクチン接種でできた抗体の効果が弱くなる可能性があるかも知れないと推察されていますが、疫学的な感染力の強さや臨床的な病原性については、いまだ全く解っていないと考えてよいと思います。
次回は、新型コロナウイルス感染症の検査法について解説します。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症