感染症を治す 抗生物質の話(第3回)
不思議な力を持つ抗生物質。 マクロライド
今回は抗生物質の話題の第3回目で、マクロライド薬を取り上げます。
マクロライド薬は丸い環状の化学構造の抗生物質で、その環状の構造の大きさから14員環、15員環などに分類されます。
グラム陰性菌にはあまり効果がありませんが、ペニシリンやセフェムが効かないマイコプラズマやクラミジアに効果があります。
これは、細胞の中にお薬が到達しないペニシリンなどと違って、マクロライド薬は細胞の中に薬が浸透します。
そのため、細胞の中で増殖する微生物にも効果があることになります。
そのため、細胞の中で増えるマイコプラズマやクラミジアにも有効となります。
その他にもマクロライドには不思議な作用があります。
びまん性汎細気管支炎と呼ばれる日本人に多い肺の病気があります。
この病気は若いときに発症して、その後繰り返し肺炎を起こし、最後には緑膿菌などの抗生物質が効かない細菌の肺炎が起きます。
根本的な治療法がなく、以前は不治の病と言われてきました。
ところがある時、町で小さな診療所を営んでいるお医者さんが、この病気の患者さんにマクロライド薬の一つであるエリスロマイシンを処方しました。
エリスロマイシンは風邪をひいたときに起きる気管支炎の治療によく使うお薬なので、そのお医者さんはその感覚で処方したのでしょう。
ところが、その薬を飲むと患者さんの症状が徐々に良くなってきました。
でも、抗生物質を長く飲ませると耐性菌ができることを懸念して、お薬の量を半分にして処方を続けました。
そして、約半年の間、この半分の量のエリスロマイシンを飲み続けた患者さんはみるみるよくなってきました。
そして、しばらく受診していなかった大学病院を受診しました。
大学病院の先生は、おそらくこの患者さんはもうこの世にはいないものと思っていましたが、目の前に見違えるほど元気になった患者さんがいたのです。
それをみて驚いた大学病院の先生は、一体なにがあったのか患者さんきくと、近所の先生からこの薬を半年もらって飲んでいたと話しました。
これが、エリスロマイシンの少量長期療法の発見でした。
その後、多くのびまん性汎細気管支炎の患者さんはこの治療法によって治すことができるようになりました。
その後の研究で、エリスロマイシンは菌を殺す働き以外に、免役に作用することが判ってきました。
マクロライド薬は不思議な力をもった抗生物質なのです。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症