国連は29日、抗生物質が効きにくい薬剤耐性菌が世界的に増加し危機的状況にあるとして、早急に業界横断的な対策を講じるよう各国に求める報告書を発表した。このままでは薬剤耐性菌による病気で2050年までに年1千万人が死亡する事態になり、世界経済は08~09年の金融危機に匹敵する破滅的ダメージを受ける恐れがあると警告した。2019年5月1日 (水)配信共同通信社
Q. 薬剤耐性菌とはどのような菌ですか?
A. 主要な抗生物質が効かない菌のことです。
薬剤耐性菌は感染症の治療に使う主要な抗生物質が効かなくなった菌のことで、最近では英語でAntimicrobial resistanceの略号でAMRと呼ばれています。世界的にこのAMRが急速に増加しており、国連や世界保健機構(WHO)などではこのままでは人類にとって脅威となることを訴えています。
Q. どうして薬剤耐性菌が増加しているのですか?
A. 感染症の治療に多くの抗生物質が使われているからです。
感染症の原因となる微生物は生物ですから、常に進化し続けます。抗生物質の登場によって、感染症の原因となる微生物を死滅することが可能になりましたが、進化した微生物は数々の手段を使って、抗生物質に打ち勝つ子孫を作り出してきました。それが、薬剤耐性菌として現在問題となっているのです。
Q. 薬剤耐性菌と聞くと病院の中にいると思いますが?
A. そうではありません。今では私たちの日常にも多くの薬剤耐性菌がいます。
薬剤耐性菌の代表格であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は以前は、院内感染で最も多い原因菌でした。もちろん今でもMRSAは院内感染の原因の一つとして重要ですが、今ではこのMRSAも病院の中だけではなく、私たちの日常生活の中でも重要な感染症の原因菌となっています。
Q. では、薬剤耐性菌を減らすためにはどうすれば良いのですか?
A. 抗生物質を適正に使うことが最も重要です。
薬剤耐性菌を作り出さなためには抗生物質を使わないことが最も良いことです。でもそれでは感染症の患者さんを治療することができなくなります。そのため、抗生物質を使うが、適正に使うことが今求められています。例えば、風邪をひいたときに抗生物質を飲むことはまちっがっています。風邪のほとんどはウイルス感染症で、細菌感染症の治療に使う抗生物質は本来効かないのです。風邪をひいたときには、解熱剤や咳止めを飲みますが、それらの薬が効いているので、決して抗生物質が効いているのではありません。不必要な抗生物質を飲まないことが、薬剤耐性菌を増やさない最も有効な手立てです。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症