抗生物質が効かない薬剤耐性菌が増えています。
菌はどんな仕組みで薬剤耐性になるの
前回に続いて薬剤耐性のお話しです。
前回もお話ししましたが、そもそも人類がペニシリンを発見しなけらば、菌も薬剤耐性になる必要はありませんでした。
でも、菌も生き物ですから、自分の子孫はそのペニシリンに打ち勝って生き延びてほしいと思ったのでしょう。
実は、菌はまさに巧みな方法を使って薬剤耐性となっているのです。
私自身も若いときに、東京大学のある研究所で薬剤耐性菌の代表選手ともいえるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の研究をしていました。
この菌は、ペニシリンがある蛋白質にくっ付いて菌を殺してしまう仕組みを巧みに利用して、その蛋白質の形を変えることによってペニシリンがくっ付くことができなくしました。
その仕組みを使って、菌はペニシリンに殺されなくなって、増え続けることができるようになったのです。これが薬剤耐性の一つの仕組みです。
その研究をしていた時に驚いたのですが、実はこの仕組みはペニシリンが発見される以前から菌の中に作れていました。
菌の遺伝子を調べてみると、菌がペニシリンに出会って、スイッチがオンになる遺伝子が組み込まれていたのです。
菌はペニシリンが発見される前から、もしペニシリンがやってきたらどうして生き延びるか、前もって用意されていたのです。
まさに驚くべき生物の仕組みです。
その後、留学先のベルギーの研究所でも薬剤耐性の研究をしていました。
この時は、菌でなくカビを相手にしていたのですが、このカビは薬を自分の体の外に吐き出すことによって薬剤耐性となっていました。
その他にも、薬を壊してします酵素を作り出すことによって薬剤耐性になったり、薬がたどり着けないように体の周りにバリアを張ったり、菌は実に様々な方法を使って薬剤耐性となります。
生命は不思議ですね。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症