新型コロナウイルス感染症。基本的なことを抑えましょう(第7回)
新型コロナウイルスのワクチンは、これまでと全く違うワクチンです。
新型コロナウイルス感染症に関する基本的なことを解説してきました小部屋も後2回になりました。
今回は、新型コロナウイルスに対するワクチンについて解説します。
実は、今回のこのワクチンはこれまでのワクチンとは全く違う画期的なワクチンです。
これまでのワクチンは生ワクチンや不活化ワクチンと呼ばれるものでした。
生ワクチンは原因となる微生物を増やしていく過程で、病原性が弱くなった微生物をワクチンとして使ったものです。
そのため、ごくまれに実際に感染して、病気を起こしてしまう危険性がありました。
それに対して、不活化ワクチンとはその微生物の成分は残るものの、増殖する能力はなくなった微生物をワクチンとして使っていました。
不活化ワクチンはより安全なワクチンですが、効果が短いため複数回の接種が必要となります。
それに対して今回の新型コロナウイルスワクチンはこれまでの概念と全く異なるもので作られています。
現時点で日本では、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカのそれぞれの製薬会社で作られたワクチンを使用することになっています。
ファイザーとモデルナのワクチンはmRNAワクチン、アストラゼネカのワクチンはウイルスベクターワクチンと呼ばれています。
どちらも新型コロナウイルスのmRNAを利用して、人の筋肉細胞内でタンパク質を作らせて、それに対する抗体で感染を防ぐという考えです。
そのmRNAの運び屋が、ファイザーとモデルナは人工的に作った極めて小さな脂質の粒子で、アストラゼネカはチンパンジーのアデノウイルスを使っています。
このようなワクチンはこれまで人に投与されたことのない、全く新しい概念で作られたワクチンなのです。
当初はこのような理由で、本当に安全なワクチンなのか、また効果が本当にあるのか疑問視されてきました。
しかし、実際に人に投与してみると、これまでのワクチン以上の効果と優れた安全性が確認されました。
今後は、これまでの生ワクチンや不活化ワクチンはなくなり、すべてのワクチンが今回の新型コロナウイルスに対するワクチンの製造方法に倣ったワクチンになるかもしれません。
まさに、今回のワクチンは人類の英知が生み出したエポックメイキングとなるかもしれません。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症