ばい菌の仲間たち 赤く染まる菌(グラム陰性菌)(第3回)
最初はソ連の秘密兵器と思われていました。レジオネラ菌
グラム陰性菌の仲間で、今回はレジオネラ菌を取り上げてみます。
レジオネラ菌の名前の由来は1976年に米国のフィラデルフィアで開催された米国退役軍人大会での集団感染です。レジオネラとは、この退役軍人の意味になります。
米国は、第二次世界大戦以降も、朝鮮戦争やベトナム戦争といった戦地に多くの軍人を送りこんできました。その戦争を経験した軍人たちの大きな集まりがあり、先日行われた大統領選挙でもこの退役軍人の一票が注目されていました。
話を感染症に戻しますが、この退役軍人がたくさん集まる集会で原因不明の肺炎の患者が多発してのです。肺炎の原因菌を調べる時には、喀痰の培養検査という検査をして、寒天培地の上に増えてきた菌を調べます。しかし、この退役軍人に起こった肺炎の喀痰培養検査をして、菌が全く増えてきませんでした。当時は、原因がわからない肺炎が多くの退役軍人を襲ったことから、まさに米ソ冷戦時代からソ連の秘密生物兵器と噂されました。しかし、その後ある特殊な寒天培地を使って検査したところ、このレジオネラ菌が増えてきました。
レジオネラ菌と聞いたら、皆さんは温泉を思い浮かべるかもしれません。レジオネラ菌は人から人には感染しませんが、水の中にいるアメーバーを介して感染していきます。山奥の温泉よりも、むしろ街中にあるスーパ銭湯と呼ばれる温泉でレジオネラ菌の感染が起きます。今度、スーパー銭湯に行ったときにちょっと探してほしいのですが、入り口にレジオネラ菌の検査結果が張ってあります。
このレジオネラ菌に感染すると肺炎を起こします。健康な人でも時にはひどい肺炎を起こすので注意が必要です。今では、尿の検査をすればすぐにレジオネラ菌に感染しているかどうかわかります。もう一つ注意が必要なことは、レジオネラ菌は細胞の中で増えるので、ペニシリンなどの普通の抗生物質が効かないことになります。
そのため、レジオネラ菌の肺炎とわかった時には、特別な抗生物質を使わないと治らないことになります。
まさに、米ソ冷戦時代の名残を残すレジオネラ菌のお話しでした。
次回はグラム陰性菌の最終回になります。どんな菌の話題でしょうか。ご期待ください。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症