寒い季節に増える肺炎に注意しましょう。
中国の原因不明の肺炎は新型コロナウイルス?
2020年の年明けから、中国の武漢市で多発する原因不明の肺炎のニュースが飛び込んできました。
これまでに59人の患者が報告されていますが、幸いにも死亡者はいないとのことです。
9日に中国国内の報道によると、今回の肺炎の原因が新型コロナウイルスであり、15人の患者からこのウイルスが分離されたと発表しました。
WHO(世界保健機構)ではいまだ正式に新型コロナウイルスが原因であるとは断定していませんが、今後も注視していくと声明しています。
当初は、以前から鳥インフルエンザから発生する新型インフルエンザが監視されている地域であり、さらに2002年に香港で流行したSARS(重症呼吸器症候群)も発生した地域であるため、そのような感染症が懸念されましたが、現時点ではその可能性は低いと考えられています。
では、今回の肺炎の原因と思われるコロナウイルスはどんなウイルスでしょうか。
コロナウイルスはヒトや鳥類に感染するさまざまな種類のウイルスがあり、遺伝学的には4つのグループに分かれます。
すべてのヒトに感染するコロナウイルスは呼吸器疾患の原因となります。
実はコロナウイルスは風邪の原因としてポピュラーなウイルスです。
冬や春の初めに毎年流行し、熱や咳など普通の風邪を起こすウイルスで、大人の風邪の15%はコロナウイルスであるという報告もあります。
その一方で、重症の呼吸器疾患を起こすコロナウイルスもあります。
それが、SARS-コロナウイルス(SARS-Cov)とMERS(中東呼吸器症候群)-コロナウイルス(MERS-Cov)です。
SARS-Covは2002年の11月に中国の広東省で第1例目が発見され、2003年の3月までに世界中に広がりました。
SARS-Covは重症の肺炎を起こし、65歳以上の高齢者では死亡率が50%以上になる危険な感染症でした。
その後、患者の早期発見と厳重な隔離によって、流行は終息しました。
このSARS-Covはおそらくジャコウネコやハクビシンといった野生動物からヒトに感染したものと考えられています。
もう一つの危険なコロナウイルがMERS-Covです。
MERS-Covは2012年の9月にサウジアラビアのジェッダで第1例目が発見されています。
このコロナウイルスも最初はコウモリからヒトに感染したと考えられていますが、その後ヒトコブラクダに感染が広がり、今では多くの症例がこのラクダからヒトに感染すると考えられています。
MERS-Covに関しては2015年の韓国での大流行が記憶に新しいところです。
韓国では2015年の5月から7月にかけて、中東地域から仕事で帰ってきた一人の会社員の男性からこの大流行が始まりました。
この流行では多くの患者は病院などの医療機関で感染したことが明らかになり、院内感染対策の重要性が改めて強調されました。
普通の風邪からSARSやMERSなど重症の呼吸器疾患を起こすコロナウイルスは、多くの野生動物からヒトに感染すると考えられています。
今回の中国での原因不明の肺炎の原因はまだ新型コロナウイルスと断定されたわけではありませんが、今後の状況を冷静に判断して対処することが大切です。
限られた情報ですが、正確にCatch-upしていきましょう。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症