賢く使おう抗菌薬(最終回)
抗菌薬を飲んでいるのはヒトばかりではありません
抗菌薬の話題の最終回はヒト以外の話題です。
実は抗菌薬を飲んでいるのはヒトばかりではありません。
最も多くの抗菌薬を使っているのは、牛や豚そしてニワトリなどの家畜なのです。
例えば、ブロイラーは狭い飼育場に何百羽というたくさんのニワトリが飼われています。
もし、そのうちの1羽が何らかの感染症に罹ったらあっと言う間に残りのニワトリに感染してしまいます。
それを防ぐために、ニワトリが毎日食べる餌の中には多量の抗菌薬が混ぜてあります。
その結果、ニワトリの体の中にいる細菌が抗菌薬の効かない薬剤耐性菌になってしまいます。
さらにその薬剤耐性菌のついた鶏肉をヒトが食べることによってヒトの体の中の細菌まで薬剤耐性菌になってしまいます。
輸入された鶏肉についている大腸菌を調べてみると、多くの抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が検出されます。
その鶏肉を食べるとヒトの体内の大腸菌が薬剤耐性菌になってしまいます。
動物ばかりでなく植物にも多くの抗菌薬が使われています。
特に、カビを防ぐための抗菌薬がいろんな植物に使われています。
欧州ではワインの原料となるブドウ畑で、このカビを殺す抗菌薬が空中から広範囲に散布されます。
この抗菌薬はヒトがカビの病気になった時に治療薬として使われる成分と同じものが含まれているため、
このブドウ畑のカビがもしヒトに病気を起こした時には、このカビの薬が効きにくい耐性菌が感染します。
ブドウをカビから守る薬が、結果的にはヒトのカビの感染症を治りにくしているのです。
抗菌薬の効きにくい薬剤耐性菌はヒトだけの問題ではなく、地球全体の問題なのです。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症