賢く使おう抗菌薬(第1回)
風邪に抗菌薬は効きません。
今回の感染症の小部屋では、抗菌薬を取り上げます。
抗菌薬というと聞きなれない言葉かもしれませんが、抗生物質の中で細菌に効果のある薬剤を指します。
まず、今回は風邪に抗菌薬は効かないことを解説します。
抗菌薬の中でも飲み薬の経口抗菌薬をこれまでに飲んだことがない人はおそらくいないと思います。
多くの人が風邪をひいて、市販の風邪薬を飲んでもあまりよくならないので、病院に行くとこの経口抗菌薬をもらうことが多いと思います。
でも、実は風邪に抗菌薬は効きません。
それは、風邪の多くはウイルスの感染症なのです。
抗菌薬は細菌の感染症に効果がある薬剤なので、ウイルスの感染症には効き目がありません。
でも、病院に行って数日間、この経口抗菌薬を飲んでいると治ってしまうことが多いと思います。
これは、抗菌薬が効いたのではなく、単に時間が経って自然に風邪が治ったにすぎません。
もちろん、風邪をこじらせて、細菌の感染症を合併することはあります。
しかし、普通の社会生活をしている正常の免疫力をもっている人であれば、時間が経てば対処療法だけで風邪は治ってしまいます。
それでも、せっかく病院に受診したのに、これまで飲んでいた市販の風邪薬と同じものを処方されて、抗菌薬を処方してくれないと何となくがっかりしてしまうかもしれません。
でも、抗菌薬のことをちゃんと理解しているお医者さんほど、風邪に抗菌薬は必要ありませんと説明してくれるはずです。
風邪をひいた時には、解熱薬や鎮咳薬など症状を和らげる薬を飲んで、安静にして、栄養を十分にとることが一番の治療法です。
次回は、抗菌薬の賢い飲み方について解説します。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症