再び新型コロナウイルスの話題(第1回)
ワクチンは本当に有効か
今回の感染症の小部屋では、再び新型コロナウイルス感染症の話題を取り上げます。
全国的に患者数は減少傾向にあり、第5波も収束しつつありますが、来るべき冬季を迎え患者数の増加が懸念されています。
第1回の今回は新型コロナウイルスのワクチンについて解説します。
実は新型コロナウイルス感染症のワクチンはこれまでとは全く異なるものです。
現在、世界中で多くの新型コロナウイルスワクチンが開発されています。
ワクチンはこれまでにも多くの感染症の制御に役立ってきており、今回のワクチンに対する期待はこれまで以上のものがあります。
しかし、現在開発されたワクチンは、今回が初めてヒトに投与される種類のワクチンです。
わが国で接種されているワクチンは、ファイザーとモデルナのワクチンとアストラゼネカのワクチンです。
前2社がそれぞれ開発したワクチンはmRNAワクチンで、後の1社はウイルスベクターワクチンと呼ばれるワクチンです。
mRNA(メッセンジャーRNA)は分解酵素で容易に破壊されるため、脂質ナノ粒子と呼ばれる極小のカプセルに包んで投与します。
そのことによって人の細胞内に取り込まれやすくなり、筋肉細胞や樹状細胞内でmRNAをもとにタンパク質が作られます。
このタンパク質の一部がリンパ球に提示されて免疫反応が起こる仕組みです。
新型コロナウイルスがヒトに感染する際には、ウイルスの表面にあるスパイクタンパク質が重要な働きをします。
ファイザーとモデルナのワクチンには、このスパイクタンパク質を生成するmRNA遺伝子が組み込まれています。
一方のウイルスベクターワクチンは、アデノウイルスなど感染性のあるウイルスに特定の遺伝子を組み込んで投与します。
アストラゼネカのワクチンはチンパンジーアデノウイルスをベクターとして、mRNAワクチンと同じくスパイクタンパク質の遺伝子が組み込まれています。
ウイルスベクター自体は人の体内で増殖しないので、病原性を示すことはありません。
ファイザーとモデルナのワクチンは第3相臨床試験の中間報告がなされており、有効率が90%以上という素晴らしい成績でした。
これは、現在のインフルエンザワクチンの有効率がおよそ50%と言われていることと比較しても驚くべき結果です。
ここでいう有効率とは「90%の人が感染しないが、10%の人は感染する」と言う意味ではなく、接種した人が接種しなかった人より発症が90%少なかった」ことを意味します。
つまり、接種すれば発症する確率が1/10になるということです。
具体的にはファイザーの臨床試験では、10人が重症の新型コロナウイルス感染症を発症し、そのうち9人はワクチン非接種群で、残りの1人がワクチン接種群であったいう結果になりました。
また、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンでは、英国で行われた臨床試験での有効率が90%、英国・ブラジルの両国で行われた試験では62%で、両者を合わせた有効率は70.4%と優れた成績でした。
さらに、ワクチン接種群では重症のコロナウイルス感染症は全く発症しなかったと報告されています。
海外で接種されているこの3つのワクチンの有害事象に関しては、局所反応がmRNAワクチンでは高いことが報告されています。
接種部位の疼痛の頻度は70~80%と、インフルエンザワクチンの10~20%よりもかなり高頻度になっています。
アストラゼネカのワクチンは疼痛の頻度はやや低くなりますが、若年者でより頻度がなる傾向にあります。
発熱については、1回目の接種ではみられませんが、2回目の接種では10~17%に発熱を認めています。
それぞれの臨床試験における重篤な有害事象は、ファイザーのワクチンでは接種群で0.6%、対照群で0.5%、モデルナのワクチンでは両群ともに1%、アストラゼネカのワクチンでは接種群で0.7%、対照群で0.8%と大きな差は認められていません。
以上、新型コロナウイルスのワクチンについて解説しました。すでに多くの人が2回の接種を終えられた思いますが、今後は3回目の接種の必要性なども考慮されると思います。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症