ばい菌の仲間たち 赤く染まる菌(グラム陰性菌)(最終回)
病院に入院中の患者さんに感染すると厄介です。緑膿菌
グラム陰性菌の最終回は緑膿菌を取り上げます。緑膿菌は英語ではPsudomonas aeruginosaという名前がついた菌です。自然界にはどこにでもいる菌で、土の中、水の中、植物や動物などの生き物などで生息しています。
人の腸の中にも生息していますが、健康な人では病気を起こ起こすことはありません。とても少ない栄養だけでも生きていくことができるので、例えば台所の食器を洗うところや、トイレの便器などの表面でも生息することができます。
緑膿菌は健康な人には病気を起こしませんが、抵抗力の弱った人では病気を起こすことがあります。特に、いろんな病気のために病院に入院している人に緑膿菌が感染すると、重症の病気を起こすことがあります。
そのため、緑膿菌はいわゆる院内感染の原因菌としてとても一般的な菌と言われます。もちろん、病院の洗面所やトイレあるいはお風呂などにもこの緑膿菌が生息しているため、この菌が入院中の患者さんに感染すると院内感染を起こします。
院内感染した緑膿菌は、肺炎や尿路感染症ばかりでなく、傷口に感染したり、中耳炎などを起こしたりします。
最も重症の場合は血液中に感染して敗血症を起こすことがあります。緑膿菌による敗血症では、菌が作るエンドトキシンと呼ばれる毒素によって、患者さん命に関わることもあります。
さらに、緑膿菌は抗生物質が効きにくい特徴があります。菌の周りにバイオフィルムと呼ばれる膜をもっていて、それによって抗生物質が菌の中に入りにくくなってしまいます。
また、病院のさまざまな場所にいる緑膿菌は、患者さんの治療に使われるさまざまな抗生物質が効かなくなる耐性菌になっていることが多くあります。このような菌は多剤耐性緑膿菌とよばれ、この菌が病院の中で集団感染すると、有効な抗生物質がとても少なくなって、治療ができなくなることがあります。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症