抗生物質が効かない薬剤耐性菌が増えています。
薬剤耐性は人間だけのもんだじゃない
薬剤耐性のお話しの3回目です。
実は、薬剤耐性は人間だけの問題ではないのです。
皆さんが毎日食べている肉や野菜も薬剤耐性に大きく関わっています。
例えば、ブロイラーは狭い場所にたくさんの鶏を飼って育てます。もし、その環境で感染症が発生すれば、一度にたくさんの鶏が死んでしまい、農家は大きな損失を受けます。
そのため、鶏に大量の抗生物質を飲ませて、感染症に罹りにくしています。そのことによって、鶏の体の中には抗生物質に効かない菌が残ってしまいます。
その鶏の肉がパックになって、スーパーマーケットで売られます。それを食べた人間の体の中に鶏の肉のくっ付いていた薬剤耐性菌が侵入してきます。
こうやって、人間の体の中に薬剤耐性菌が住み着いて、その菌がいろいろな感染症を起こしたり、便や尿の中から他の人に移っていくのです。
実際に外国産の鶏の肉を調べてみると9割近くに、薬剤耐性となった大腸菌がくっ付いているともいわれています。
さらに驚くことは、海にいるあのイルカも薬剤耐性となった菌をもっているということです。これはおそらく、薬剤耐性菌を含んだ水が川から海に流れて、その水を飲み込んだイルカの体の中に薬剤耐性菌が入り込んだためと考えられています。
肉以外でも、野菜でも薬剤耐性が問題となっています。
例えば、野菜の病気の原因となるカビを殺すためにたくさんの抗カビ薬である農薬が使われます。そのことによって、自然界に生息しているカビが薬剤耐性となってしまいます。
その薬剤耐性となったカビを人間が吸い込むことによって、肺の病気が発症します。しかし、原因のカビが薬剤耐性になっていると、治療に使うお薬が効かなくなってしまいます。
薬剤耐性は病院だけの問題でなく、広く地球全体が関わっている問題なのです。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症