今、ヨーロッパで麻しん(はしか)の患者さんが増えています
実は今、欧州では麻疹患者の報告数が急増しています。
例えば英国では1か月に50人以下であった報告数が、昨年12月には150人以上と3倍以上に急増しています。
このグラフは2023年の1月から12月までに英国の保健省に報告されている麻しん(はしか)の患者さんの数です。11月から12月にかけて急増しています。
世界保健機関(WHO)もこの事態を深刻に受け止めており、WHOのハンス・クルーゲ欧州地域事務局長は、「欧州では、麻疹患者が30倍に増加しただけでなく、2万1000人近くが入院し、5人が関連死している。これは懸念すべきことだ」と述べています。
原因としては新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で、特に子どもたちでワクチンの接種率が低下したことが一因と考えられています。
感染力が最も強い感染症です
麻しんは感染力が最も強い感染症の1つです。
空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染とさまざまな感染経路を示し、その感染力が極めて強い感染症の1つです。
1人の患者さんから免疫のない何人の患者さんに感染するか?
- 季節性インフルエンザ→1.3~1.8人
- おたふくかぜ→4~7人
- 風しん→6~7人
- 麻疹→12~18人
この数字を見ても麻しんの感染力はとても強いことが判ります。
麻しんの予防にはワクチンが有効です。
現在、日本では第 1期として生後 12~24か月未満の児に、第2期として5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間の子どもにMRワクチン(乾燥弱毒生麻しん風しん混合 MR ワクチン)をそれぞれ1回ずつ定期接種されています。
ワクチンの効果は高く、1回接種による免疫獲得率は93~95%以上、2回接種による免疫獲得率は97~99%以上と報告されています。
2015年以降、日本国内では麻疹が排除されていますが、これを維持するには接種率を95%以上に保つ必要があります。
しかし、2022年には第2期の接種率が95%に満たない都道府県が多くあり、中には90%以下の地域もあります。
麻しんの予防には第1期と第2期のMRワクチンを確実に接種することが重要です。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症