今は海外旅行に行けませんが、輸入感染症
腸チフス、パラチフスと言ってもお腹の病気ではありません。
最終回の今回は、腸チフスとパラチフスを取り上げます。
腸チフス、パラチフスはそれぞれチフス菌、パラチフスA菌による感染症です。
実は、このチフス菌やパラチフス菌はサルモネラ菌の仲間です。
サルモネラ菌は食中毒で最もお多い原因菌ですが、腸チフスやパラチフスはお腹の病気ではなく、全身性の感染症です。
現在でも衛生環境が悪い開発途上国で蔓延しています。
特に南アジア、東南アジアでは患者も多く発生し、また中南米、アフリカでもよく見られる感染症です。
日本で発生することはとても珍しくて、これらの国に仕事や旅行で行って、日本に帰ってきてから発症します。
1週間程度の潜伏期間を経て、熱がでたり、頭が痛くなったり、身体が怠くなったりします。
熱は40℃近くの高熱になることもあり、その後で、バラ疹と呼ばれる特徴的な皮疹が出てきます。
腸チフスやパラチフスは細菌感染症なので、抗生物質が有効です。
ただし、これまで良く効いていた抗生物質に耐性を持つ菌が世界中で流行しているので注意が必要です。
腸チフスには世界的にはワクチンが使われていますが、日本ではワクチンはいまだに許可されていません。
そのため、外国から輸入したワクチンを限られた病院で接種できます。
パラチフスには現時点で有効なワクチンはありません。
4回にわたって輸入感染症を取り上げてきました。今は新型コロナウイルス感染症の影響で海外に行く人は極端に少なくなっていますが、
この流行が落ち着けば、また海外に行く人も多くなると思います。
改めて、海外に行くときにはこれらの感染症に十分注意してください。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症