ばい菌の仲間たち 赤く染まる菌(グラム陰性菌)(第1回)
ばい菌と言えばその代表格です。だれでも聞いたことがある大腸菌
今回から4回の感染症の小部屋は細菌の話題の続きです。
今回からは赤く染まる菌としてグラム陰性菌を取り上げます。グラム染色は細菌を染色液で染めて、顕微鏡で見る最も基本的な検査法の一つです。その中で、赤く染まる菌の仲間をグラム陰性菌と呼びます。
今回はグラム陰性菌の中でも、最もおなじみの細菌の一つとして大腸菌を取り上げます。
大腸菌は赤く染まる細長い菌で、グラム陰性桿菌に分類されます。また、人をはじめ多くの動物の腸管内に生息する腸内細菌の一つです。大腸菌は腸の中だけでなく、自然界では広く土や水の中にも生息しています。
大腸菌はエンテロトキシンと呼ばれる毒素をもっていて、この毒素によってさまざまな病気が起きます。また、鞭毛と呼ばれるひも状の構造物をもっているため、それを使って泳ぎまわるように移動することができます。
大腸菌と聞くと、皆さんはすぐにO157という言葉を思い出すことでしょう。これは、大腸菌の外側にあるリポ多糖体と呼ばれる構造物から菌の種類を区別する方法で、O抗原と呼ばれるものです。
このO157は食中毒の原因菌として有名で、この菌で汚染された食べ物を多くの人が食べることによって集団感染が発生して、よくニュースになります。また、このO157は腸管出血性大腸菌と呼ばれることもあり、大腸菌の中でも病原性が強くて、時には死亡することもある怖い菌として知られています。
このO157はときに幼い子供に感染すると溶血性尿毒症症候群と呼ばれる腎臓の働きが悪くなる合併症を起こして、この合併症が起こると死亡することが多くなります。
大腸菌は本来ペニシリンをはじめとする抗生物質が良く効きますが、最近では多くの抗生物質が効かなくなった基質拡張型β-ラクタタマーゼ産生菌と呼ばれる耐性菌が増えてきていることには今後の注意が必要です。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症