ばい菌の仲間たち 青く染まる菌(グラム陽性菌)(第1回)
ブドウの房のような丸い菌です。黄色ブドウ球菌
今回の感染症の小部屋はこれまでと少し趣を変えて、感染症の原因となる微生物に焦点を当てて解説します。
第1回目は黄色ブドウ球菌を取り上げます。
実は細菌を分類するときに、グラム陽性菌とグラム陰性菌という分け方があります。
これは、細菌を特殊な染色液で染めて、顕微鏡でみると、青色に染まる菌がグラム陽性菌で、赤色に染まる菌がグラム陰性菌になります。
それともう一つは細菌の形で分けることがあります。
これは単純に顕微鏡で見て、丸く見える菌を球菌、棒のように細長く見える菌を桿菌と呼びます。
この二つの分け方を組み合わせて、グラム陽性球菌やグラム陰性桿菌などと呼びます。
今回取り上げる黄色ブドウ球菌はその分類からはグラム陽性球菌の一つになります。
また、この菌は顕微鏡で見るとまるでブドウの実が房状になっているように見えるので黄色ブドウ球菌という名前が付きました。
この菌は、人の皮膚などに普通にいる菌ですが、感染を起こすと化膿して、皮膚におできを作ります。
その他にも肺炎や敗血症と呼ばれる重症の感染症を起こすことがあります。
また、この菌が作る毒素によって、食中毒が起こったりすることがあります。
さらに、この菌はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)として有名です。
このMRSAという言葉はどこかで聞いたことがあるかもしれませんが、いわゆる院内感染を起こす代表的な菌として知られています。
そのうえ、このMRSAは抗生物質が効かなくなる薬剤耐性菌としても有名です。
いまでも、病院に入院している患者さんの中には、このMRSAの院内感染で亡くなる方もあります。
実は、私は若い頃にこのMRSAの研究をしていました。
どうして、MRSAに抗生物質が効かなくなるのかを研究して、その遺伝子を突き止めました。
そして、その遺伝子が実はMRSAが世の中に出現する以前から、黄色ブドウ球菌の中にあったことを発見しました。
それが、抗生物質の登場によってその遺伝子が働き、薬が効かなくなったのです。
菌は太古の昔から抗生物質が現れたら、どうやって生き延びていくか準備していたのです。
生き物は本当に不思議です。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症