ばい菌の仲間たち 赤く染まる菌(グラム陰性菌)(第2回)
昔はインフルエンザの原因と思われていました。インフルエンザ菌
グラム陰性菌の第2回はインフルエンザ菌を取り上げます。
インフルエンザ菌はその名前のように、昔は今のインフルエンザウイルスによって起こるインフルエンザの原因と考えられていました。
ウイルスが発見されるまでは、顕微鏡で見える細菌までが微生物であったため、インフルエンザの症状がでた患者さんの喉の培養検査をするとこの菌がたくさん培養されたのです。
そのことから、インフルエンザはこの菌によって起きる感染症と思われていました。しかし、その後ウイルスが発見されて、インフルエンザはそのウイルスによる感染症であることが判明しましたが、この菌の名前だけは残ってしまいました。
それだけ、このインフルエンザ菌は人の身体とくに上気道にはたくさんいる菌なのです。インフルエンザ菌は自然界において人は唯一の宿主であり、他の動物にはいないことも特殊な菌と言えます。
特に喉や鼻の中などの上気道には普通の人でもたくさんのインフルエンザ菌が生息しています。この菌は菌の周りに分厚い莢膜と呼ばれる構造物をもっていることが特徴的で、この莢膜によってさまざまな病気が起きます。
大人では、上気道にいる菌が、肺炎や副鼻腔炎などの感染症を起こします。時にはその菌が血液中に入って、敗血症などの重症の感染症を起こすことがあります。ただ、この菌は大人より子供にとって怖い菌です。特に赤ちゃんではインフルエンザ菌による細菌性髄核炎が起きて、命に関わる場合があります。多くは初めにインフルエンザ菌による中耳炎が起きて、そこから髄膜炎に広がっていきます。
しかし、この莢膜に対するワクチンが開発され、子供たちのインフルエンザ菌による髄膜炎が激減しました。このワクチンはHibワクチンと呼ばれ、日本でも子供たちは必ず接種することになっています。ワクチンによって子供たちに起きる髄膜炎は激減しましたが、その反面で抗生物質の効かないインフルエンザ菌が最近増えてきています。
インフルエンザ菌は本来ペニシリンなどの抗生物質を分解してしてしまうβ-ラクタマーゼと呼ばれる酵素をもっていることが多く、そのためペニシリン以外の抗生物質を治療に使っていましたが、最近ではβ-ラクタマーゼをもっていないのに抗生物質が効かない菌が増えています。これは世界中で日本で特徴的にみられる現象で、多くの種類の抗生物質が効かない菌になってしまいます。この菌は増え続ければ、治療することが難しくなるので、今後の状況には注意が必要です。
今回は、名前だけが残ってしまったインフルエンザ菌を取り上げました。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症