最も小さな生き物。ウイルスによる感染症(第2回)
思春期に感染するロマンティックはウイルスです。エプスタイン-バーウイルス
今回もDNAウイルスの仲間の一つ、エプスタイン-バーウイルス(EBウイルス)を取り上げます。
実は、このウイルスはキッシング・ディジーズと呼ばれるロマンティックな病気の原因ウイルスです。
この病気は思春期の若者が初めてキッスをした後に、病気が発症することからこのような名前が付いています。
正式には伝染性単核球症という病名がついた感染症ですが、その原因微生物がこのEBウイルスです。
EBウイルスは乳児や幼児に初めて感染しますが、その時は全く症状がでません。しかし、青年期になって感染すると伝染性単核球症を発症します。
症状は普通の風邪と同じように、熱が出て、喉が痛くなったり、リンパ腺が腫れたりします。
ただ、普通の風邪と違うところはこのような症状が長く続いて、時には数週間も続くことがあります。
このEBウイルスは唾液の中に多く含まれていて、そのウイルスが口の粘膜から感染することによって病気が起きます。
そのため、キスすることによって、このウイルスが感染することからキッシング・ディジーズと呼ばれるようになりました。
口の粘膜から感染したウイルスは、血液の中に入ってBリンパ球と呼ばれる血液の成分に感染していきます。
感染したリンパ球は顕微鏡で見ると、普通のリンパ球と形が変わった異型リンパ球と呼ばれる成分になります。
そのため、この異型リンパ球が血液中にあることがわかれば、伝染性単核球症と診断されます。
もう一つ、このウイルスは悪性腫瘍(いわゆる癌)との関係がわかった最初の人のウイルスです。
リンパ腺の癌の一つのバーキットリンパ腫や喉の癌である上咽頭癌がこのEBウイルスが原因で起こることがあります。
日本人のおよそ9割の人が感染している身近なウイルスですが、侮ってはいけません。
次回からはRNAウイルスの仲間を取り上げることにします。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症