今では不治の病ではありません HIV・エイズの話(最終回)
急速に進化したHIVのお薬 抗HIV薬
今回はHIV・エイズの話題の最終回としてHIVのお薬である抗HIV薬を取り上げます。
このシリーズのタイトルにあるようにエイズはもはや不治の病ではなくなりました。
それは急速に進歩したエイズの治療薬である抗HIV薬のおかげです。
抗HIV薬はこの数十年で、さまざまな薬剤が開発され、実際に患者さんに投与できるようになり、多くのエイズ患者さんが治癒しています。
抗HIV薬によるエイズの治療をART(Anti retrovirus therapy)療法と英語で言われており、現在ではすべてのエイズ患者さんにこのART療法が行われています。
このART療法は基本的には働きが違ういくつかの抗HIV薬を2~3剤組み合わせて患者さんに飲んでもらいます。
現在、ヌクレオシド/ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、非ヌクレオシド/ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、インテグラーゼ阻害剤(INSTI)、侵入阻止阻害剤と呼ばれる5種類の異なる働きの抗HIV薬を組み合わせて使います。
これらの薬剤によってHIVの増殖を抑えますが、ウイルスの一部は非常に生命の長いリンパ球の中に潜伏しているため、そのウイルスを完全になくすに70年以上もお薬を飲む必要があります。
すなわち、エイズ患者さんは一度お薬を飲み始めたあならば、一生お薬を飲まなければならないということです。
さらに、お薬を途中で止めたり、きちんと飲んでいいなかった時には、お薬が効かない耐性ウイルスができてしまいます。
そうなると、有効なお薬が限れてきて、治療が難しくなります。
患者さんには毎日欠かさず、一生お薬を飲み続けてもらうようにすることがとても大切なことになります。
そうすれば、今では多くのエイズ患者さんは普通の人と同じくらい長生きができるようになっています。
では、これで今回のエイズ・HIVの話題を終わることとします。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症