ヒトメタニューモウイルスの発見
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)は2001年にオランダで20年間にわたって診断できなかった上気道および下気道の感染症で入院した子供の検体から始めて分離されたウイルスです。
その後、保存してあった検体の詳しい検査をしてみると1950年代からこのウイルスによる感染症はあったことがわかり、遺伝子を調べてみるとさらに以前から存在していた可能性もあります。
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)はパラミキソウイルスの1種で同じウイルスの仲間のRSウイルス(RSV)とよく似ています。
そのため、hMPVとRSVはしばしば同時に感染することがあります。
この二つのウイルスが同時に感染するとより重症になると言われていますが、臨床的な証拠はいまだありません。
多くは子供の急性上気道感染症の原因
hMPVは他のウイルスと同様に呼吸器感染症を起こすウイルスです。
先進国から開発途上国まで世界中に認められ、5歳未満の多くの子供はこのウイルスに感染していると考えられています。
2際未満の子供が感染するとより重症になりやすいとされています。
急性気道炎を起こした子供の2~20%にウイルスが認められ、急性呼吸器感染症で入院した3~7%の子供にウイルスが認められとの報告もあります。
また、全く症状のない子供や大人からこのウイルスが検出されることは極めてまれ(<1%)とされています。
最近の研究では、全米の5歳以下の子供が1年間にhMPVの感染で、20,000人が入院し、263,000人が救急外来を受診し、約1億人が一般外来を受診していると考えられています。
多くの施設の研究では、このウイルスが流行する年はまちまちですが、流行時期は多くの報告でも冬から早春とされています。
喘息を基礎疾患に持つ5歳未満の子供が感染すると重症の肺炎を起こすことがあり、集中治療室での治療が必要となることもあります。
また、10%程度の症例に中耳炎を合併するとされています。
高齢者では重症化
大人に感染した場合は一般的に重症となることは少ないとされていますが、慢性の肺疾患や心臓疾患を持っている大人や、超高齢者が感染するととき重症となります。
大人でも急性上気道炎の3~7%はこのウイルスが原因と考えられています。
また、時に集団感染を起こすことがあり、高齢者が入居している施設などでは注意が必要です。
リバビリンと呼ばれる抗ウイルス薬や、免疫グロブリンなどが治療に使われることがありますが、その効果ははっきりとは実証されていません。
また、現時点では有効なワクチンも存在しません。
それぞれのウイルス感染症の症状
症状 | hMPV | RSV | インフルエンザA |
発熱 | 52~80 | 47~57 | 78~81 |
咳 | 88~92 | 99 | 96 |
鼻水 | 88~92 | 91 | 84 |
喘鳴 | 22~83 | 22~65 | 5~57 |
下痢 | 8~17 | 17 | 9~27 |
嘔吐 | 10~25 | 8 | 10 |
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症