忘れてはいけない感染症。寄生虫の病気
可愛いキタキツネや犬には注意を
世の中はコロナウイルス感染症の話題ばかりですが、こんな時こそ忘れていけない感染症として寄生虫の病気を取り上げることにします。
第1回目はエキノコックス症です。
エキノコックス症と言えば、キーワードは北海道とキタキツネです。
エキノコックス症はエキノコックスと呼ばれる寄生虫の感染症です。
日本では1937年に北海道の小樽に住んでいた礼文島出身の女性で最初に発見されました。その頃は原因がわからない礼文島の奇病と言われていました。
エキノコックスには多包虫症と単包虫症があり、日本で見られるエキノコックス症は多包虫症になります。
虫はどこにいるかと言うと、成虫はイヌ科の動物(多くはキツネやイヌ)の腸の中に寄生しています。
成虫は小さな糸くずのような虫ですが、これが卵を産み、キツネやイヌの便の中から外にまき散らされます。
それを野ネズミが食べて感染し、その野ネズミをキツネやイヌが食べて感染していきます。
ヒトはキツネやイヌの便の中の卵に触って、それが口から体の中に入って感染していきます。
体の中に入った卵は腸の中で成虫になって、最後は肝臓に感染していきます。
エキノコックスは肝臓にたくさんの膿瘍(膿の塊)を作ることが特徴的とされています。
治療はこの膿の塊と手術でできるだけ取り除いて、その後にお薬を飲みます。
エキノコックス症はこれまで北海道にしかない病気と言われてきました。
あのかわいらしいキタキツネに触った後に、手についたエキノコックスの卵が口から入って感染することが一番多いとされています。
ただ、最近では北海道から人の転居に伴って一緒に関東にやって来たイヌの便の中にもエキノコックスの卵が発見されています。
今では、決して北海道だけの病気ではないようです。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症