感染症を治す 抗生物質の話(最終回)
日本で中心的に開発された最強の抗生物質。 ニューキノロン
抗生物質のお話しの最終回はニューキノロンを取り上げます。
抗生物質はペニシリンなど自然界から発見されるものと、完全に化学合成で作るお薬があります。
ニューキノロンは完全に化学合成して作るお薬で、人間が設計図を書いてそれによって作っていきます。
このニューキノロンの多くは、日本で開発され、実際に感染症の治療薬となったお薬が多くあります。
まさに、ニューキノロンは日本が世界に誇る抗生物質の一つです。
このニューキノロンは細菌が増殖する際の核酸の合成に関わる大切な酵素の働きを止める作用があります。
そのため、細菌は完全に増えることができなくなり、死滅してしまいます。
このような抗生物質の作用は殺菌性とよばれ、最も強力な抗生物質ということになります。
また、このニューキノロンは時代とともに変化してきました。
最初は大腸菌などのグラム陰性菌に対して強力な殺菌作用をしめすお薬が作られました。
そのため、膀胱炎や胃腸炎といったおへそから下の感染症に対してとても優れた効果がありました。
しかし、その後肺炎球菌などのグラム陽性菌に対して強いお薬が作られ、今では肺炎などおへそから上の感染症に効果があります。
しかし、すべての抗生物質の宿命ですが、この強力なニューキノロンにも耐性菌が生み出されました。
今では、以前はずべての菌に対して強い殺菌効果を示していた大腸菌にも耐性菌が増えてきています。
人間と菌のいたちごっこはこのニューキノロンの歴史をみるとこれからも永遠に続くことがよくわかります。
感染症の治療の最大の武器である抗生物質をこれからも大切に使って、耐性菌との戦いに勝ち抜いていきましょう。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症