レジオネラ菌の発見
レジオネラ(legionnaire)は、英語では在郷軍人のことを指します。
1976年に、米国のフィラデルフィアのあるホテルで開催された退役軍人による在郷軍人のパーティーで、初めてこの病気が起こりました。
パーティーに参加した人のうち、221人が感染し、うち34人が死亡しました。
早速CDC(米国疾病対策センター)をはじめとして、この謎の集団感染の原因を追究しました。
しかし、原因はすぐには判明せず、当初は退役軍人を狙った旧ソ連の生物兵器かなどとも噂されました。
それから6か月後、CDCのJoseph McDadeとCharles Shepardの2人の研究者によって、この感染症はグラム陰性桿菌であるレジオネラ菌による肺炎であることが証明されました。
レジオネラ菌はどのようにして感染するのか
レジオネラ菌は、自然界の水の中に生息しています。
特に25℃から40℃くらいの暖かい水の中では、多くのレジオネラ菌が増えると考えられています。
また、同じ温度で生息しやすいアメーバは、レジオネラ菌の良い増殖場所になっています。
そのため、自然界では湖や河川などの水からレジオネラ菌を検出することがあります。
レジオネラ菌を含むごく小さい水滴をヒトが吸入することによって、肺に感染が起こり、肺炎を起こします。
左右の肺に広い範囲にわたって肺炎が見られます。この患者さんはエリスロマイシンとリファンピシンと呼ばれる特殊な抗生物質を使って治すことができました。
最初のフィラデルフィアの集団発生では、空調に用いた冷却水がレジオネラ菌に汚染され、それが配管を通じて多くの人に感染させたと考えられています。
現在は、閉鎖式の空調設備が多く使われていますが、屋上にクーリングタワーが設置されている旧式の空調設備では、こうした感染が発生することがあります。
日本では温泉やお風呂で時に集団感染があります
日本でもこのような空調によるレジオネラの感染事例がありますが、その多くは温泉やお風呂に関係したレジオネラの集団発生事例です。
レジオネラ菌は40℃程度のお湯で増殖できるため、少しぬるめの温泉の水はレジオネラ菌に汚染される危険性があります。
一時期、フィルターでろ過した水を再利用する24時間風呂が普及したことがありましたが、このフィルターではレジオネラ菌を除去できないため、感染事例が報告されていました。
レジオネラ菌は塩素消毒で十分に殺菌できるため、適正な消毒を行っていれば問題ありません。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症