今回も生かし切れなかった2009年の新型インフルエンザの教訓
2009年に新型インフルエンザウイルス(H1N1)のパンデミックが起きました。
その時にこの新型インフルエンザに対するワクチンはすべて海外の製薬企業によって開発されたものでした。
当時は「輸入ワクチン」と呼ばれて、海外の製薬企業の2社から開発されたワクチンが使用される予定でした。
2009年の新型インフルエンザウイルス(H1N1)のワクチンを開発した企業
- ノバルティス(Novartis)(スイス)
- グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline、GSK)(イギリス)
- サノフィ・パスツール(Sanofi Pasteur)(フランス)
しかし、その後この新型インフルエンザの病原性が幸いにして弱いことがわかり、実際にこのワクチンを使用することはありませんでした。
その後、このことを教訓に来るべき新たな感染症のパンデミックに備えて国産ワクチンを開発することが急務とされてきました。
衰退し続けた日本の感染症およびワクチン研究
もともと日本の感染症研究は、歴史的にはペスト菌を発見した北里柴三郎博士や梅毒研究の野口英世博士など、世界的にも顕著な研究成果を上げていました。
公衆衛生が整うと、感染症への関心が徐々に低下してきました。
製薬企業も利益になる高血圧や糖尿病などの生活習慣病の新薬の開発に力を注ぎ、利益の少ないワクチンの開発や生産には興味を示しませんでした。
ワクチンの国内市場規模は、医薬品が約10兆円であるのに対して約3%程度のおよそ3200億円とされています。
ちなみにこの金額は世界のワクチン市場の総額約4兆円のうちのたかだか8%を占めるのみとなっています。
さらに、現在の世界市場は欧米4社の寡占市場ともなっています。
AMEDに置かれたSCARDAの役割
今回も日本でワクチンが開発されなかったことを受けて、政府は日本医療研究開発機構(AMED)内に先進的研究開発戦略センター「SCARDA(スカーダ)」と呼ばれる組織を作りました。
このSCARDAでワクチン開発に関する世界トップレベル研究開発拠点を整備して、ワクチンの研究・開発を資金で後押しすることになりました。
緊急時である今回の新型コロナウイルス感染症ワクチン開発では、約9億5500万ドルの資金を追加で得て開発を進めてきました。
そのようなことを踏まえて、わが国のSCARDAでは5年間で1500億円の資金援助を行うことが決まりました。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症