中和抗体とは
新型コロナウイルスに感染した患者さんの血液中には新型コロナウイルスに対する抗体が作れます。
その抗体は新たな新型コロナウイルスの侵入を防いだり、増殖を抑制したりする働きがあります。
しかし、その抗体は感染した新型コロナウイルスに対して効果を示しますが、変異したウイルスには効果がなくこともあります。
また、時間とともに抗体の量が少なくなってしまい、間隔が空くと次の感染には効果が弱くなってしまいます。
さらに、抗体ができるまでにはある一定の時間が必要なため、感染してすぐに効果を期待するためには外からその抗体を体内に入れてやる必要があります。
そのため、このような中和抗体を人工的に作って、それを治療薬とする薬剤が中和抗体薬と呼ばれています。
現在、日本で新型コロナウイルスの治療に使うことができる中和抗体薬は
- ソトロビマブ
- カシリミマブ/イムデミマブ
- チキサゲミマブ/シルガビマブ
の3種類です。これからこの3種類の中和抗体薬について簡単に解説します。
ソトロビマブ
このお薬は新型コロナウイルスと同じコロナウイスルの感染症である重症呼吸器症候群(SARS)に感染した患者さんの抗体をもとに作られた薬剤です。
モノクローナル抗体という遺伝子操作を行って人工的に作られた抗体を使っています。
使い方は点滴静注として1回だけ使います。
新型コロナウイルスが発症してからあまり時間が経っていない患者さんに使うことによって、その患者さんが重症になることを防ぐ働きが確認されています。
しかし、オミクロン株では効果が弱くなることが懸念されており、今ではあまり使われていません。
カシリミマブ/イムデミマブ
この薬剤は新型コロナウイルスに感染した患者さんの抗体をもとに作られています。
一つの抗体を作る細胞を使って、遺伝子操作によってモノクローナル抗体を作ってそれを薬として使います。
この薬剤は2つの抗体の点滴をそれぞれ1回注射します。
新型コロナウイルスに感染したあまり時間が経っていない患者さんが重症になったりすることを防ぐ効果が確認されています。
また、感染した人と同居する家族に使うことによって感染を防ぐ効果も確認されています。
しかし、オミクロン株では効果が弱くなることが懸念されており、今ではあまり使われていません。
チキサゲミマブ/シルガビマブ
この薬剤も新型コロナウイルスに感染した患者の血液中の抗体をもとに作られています。
モノクローナル抗体として2つの種類の抗体を投与します。
使い方が2つの抗体が入った注射をそれぞれ1回づつ筋肉注射します。
新型コロナウイルスに感染したあまり時間が経っていない患者さんが重症になったりすることを防ぐ効果が確認されています。
また、感染した人と同居する家族に使うことによって感染を防ぐ効果も確認されています。
日本では新型コロナウイルスの治療に使うことはできず、ワクチンを接種してない人や、免役の働きが弱く、ワクチンを接種しても十分な抗体ができない可能性がある患者さんが新型コロナウイルスに感染した時に限って使うことができます。
しかし、この薬剤もオミクロン株では効果が弱くなることが懸念されています。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症