新型コロナウイルスも人類の前に現れてから2年以上の月日が経ちました。その間に人類は、この未知の感染症に立ち向かうため、さまざまな努力をしてきました。その一つはワクチンであり、もう一つが治療薬の開発でした。治療薬は抗体治療薬と抗ウイルス薬が開発され、実際に患者さんの治療に使えるようになりました。
いま使用できる抗ウイルス薬
新型コロナウイルスの治療薬としては、すでに3種類の抗ウイルス薬が実際に患者さんの治療に使われています。
ベクルリー点滴静注
ベクルリー点滴静注(同レムデシビル)は本来、エボラ出血熱の治療薬として開発されてきました。
同じRNAウイルスであるコロナウイルスにも効果が期待され、抗ウイルス薬としては最初に承認され、臨床使用が始まりました。
点滴静注薬であることから、当初は中等症から重症の患者さんが対象でした。
その後の臨床試験で軽症例にも有効であることが示され、点滴静注薬ながら軽症の患者さんへの3日間の投与ができるようになりました。
ラゲブリオ
経口薬のラゲブリオ(同モルヌピラビル)は最初は抗インフルエンザウイルス薬として開発されてきましたが、新型コロナウイルスにも効果があることが確認され、臨床試験が行われました。
軽症例を対象とした臨床試験の結果、投与群では重症化して入院する患者さんが減少することが確認されました。
しかし、国産の薬剤ではないため、安定供給に問題があり、国内で使用する際には軽症例でも何らかの重症化リスクのある患者さんに限って処方が可能です。
パキロビッドパック
この薬剤は、新型コロナウイルスの3CLプロテアーゼを阻害するニルマトレルビルと、その濃度を上げるためのブースターとしてリトナビルが配合された薬剤です。
この薬剤も軽症患者さんを対象とした臨床試験で、重症化や入院を90%近く減少させたとして有効性が確認されています。
しかし、本剤も国産ではないため、供給面から投与する患者さんにはある程度の制約があります。
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S-217622
塩野義製薬が開発した新型コロナウイルスの治療薬S-217622もパキロビッドパックと同様に3CLプロテアーゼ阻害薬です。
試験管内の抗ウイルス活性は残念ながらパキロビッドパックにはかなり劣っています。
日本と韓国でプラセボ対照二重盲検比較試験が実施され、その結果が最近公表されました。
それによると、3回投与終了後のウイルス力価がプラセボ群に比べて有意に減少したことが示されました。
また、この時点でウイルスが陽性の患者さんは10%未満で、早期に体内からウイルスを除去する効果が確認されました。
しかしながら臨床効果をプラセボ群と比較すると、12症状合計スコアの初回投与開始から120時間(6日目)までの単位時間あたりの変化量は、プラセボ群と比較して改善方向に推移したものの、統計学的に有意な差は認められなかったと報告されています。
ただし、鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳、息切れ (呼吸困難)の合計スコアにおいては、プラセボ群と比較して有意な改善効果を確認したとされています。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症