現在、わが国新型コロナウイルス感染症の治療に使える中和抗体
わが国では、これまで3種類の中和抗体が新型コロナウイルスの治療に使われてきました。
しかし、この中和抗体はオミクロン株の亜種では効果があまりないことが確認されています。
これまで、オミクロン株の亜種であるBA・4やBA・5ではその効果が低いとされていました。
今回の研究ではさらにオミクロン株の亜種であるBQ・1にも効果が低いことが証明されました。
では、これまでわが国で使われてきた中和抗体薬について簡単に解説します。
- ロナプリーブ
最初に治療に使うことができた中和抗体薬
2つの中和抗体を使うことからカクテル療法と呼ばれました。
オミクロン株では効果が低いため、現在はほとんど使われていません。
- ゼビュディ
BA・1までのオミクロン株ではある程度の効果がありました。
BA・2以降のオミクロン株では効果が低いことが判りました。
現在の流行のBA・5では使用することはほとんどなくなりました。
- エバシェルド
BA・5にもある程度の効果が確認されています。
しかし、今後の流行が懸念されるBQ・1では効果が低いとされています。
カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)
わが国で最も早く治療に使うことができた中和抗体薬です。
コロナウイルスのスパイク蛋白の一部に結合する抗体をモノクローナル抗体という技術を使って作り出してます。
オミクロン株以前のコロナウイルスが増殖することが証明されていました。
患者さんに使用すると、重症化することを防ぐ効果が認められています。
さらに、発症した家族などの濃厚接触者では発症することを防ぐ効果も確認されています。
ソトロビマブ(ゼビュディ)
この中和抗体薬は、新型コロナウイルスと同じコロナウイルスである重症呼吸器症候群(SARS)の中和抗体薬として開発されてきました。
SARSと同じコロナウイルスである新型コロナウイルスにも効果が期待でき、治療に使われてきました。
この中和抗体薬もオミクロン株以前のコロナウイルスに感染した患者さんに投与すると重症化を防ぐ効果が確認されました。
チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)
3つ目の中和抗体薬で、この薬剤もコロナウイルスのスパイク蛋白に結合するモノクローナル抗体と呼ばれる薬剤です。
海外では新型コロナウイルスの治療にも使われていますが、わが国では重症化のリスクがある患者さんの重症化予防として使用されます。
しかし、この中和抗体薬も他の2つの薬剤と同じようにオミクロン株では効果が低いとされています。
このように、現在流行しているオミクロン株の亜種ではわが国使用可能な3つの中和抗体薬の効果が期待できないと考えられています。
しかし、わが国で使用可能な4つの抗ウイルス薬の効果はオミクロン株でも確認されているため、今後は抗ウイルス薬による治療が中心となると考えます。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症