毎週、患者紹介があります
梅毒の患者数が急増しています。私の外来でも毎週、患者さんが紹介されてきます。多くは若い患者さんで、第II期の梅毒(早期顕症梅毒)と診断されます。
実際にどれくらい患者数が増えているかと言うと、東京都の感染症情報センターの集計で見てみると2020年までは横ばいか、やや減少傾向にあった患者数は年間で2000人を下回る状況でしたが、2021年に増加に転じて2000人を突破すると、2022年には年間3700人程度となり、2020年の2倍以上と急増しました。2023年は半年で2400人を超える患者数が報告されており、2022年より多い患者数を記録することは間違いないと思います。
さらに、男女別に患者の年齢を見てみると、最も多いのは20~29歳の女性で、それに続いて30~39歳の男性に多くみられています。今回の梅毒患者の急増は、若い女性が多くを占めている実態が浮き彫りになっています。
感染経路の多くは異性間の性的接触
国立感染症研究所の報告によると、感染経路は男性では異性間の性的接触によるものが2021年では61%(3163例)で、2014年の35%(439例)と比較してそれほど大きな変化はありませんでした。それに対して、女性では異性間の性的接触による感染が2014年には67%(253例)と報告されていますが、2021年には80%(2164例)と急増しています。
この原因としては、SNSなどを通じた女性の不特定多数の男性との性交渉が増加しており、そのことが患者数急増の大きな要因ではないかと考えられています。さらに深刻なことは、この年代の女性は妊娠することも多く、感染した母体から生まれてくる赤ちゃんの先天梅毒も急増していることです。
2014年以前は年間10例以下だった先天梅毒の報告が、2022年には年間20例と倍増しており、2023年に第1四半期ですでに6例の先天梅毒が報告されています。
梅毒血清反応による診断の意味
梅毒の診断は、硬性下疸、梅毒バラ疹、扁平コンジローマなどさまざまな診察所見とともに、血清を用いて梅毒抗体の検査を行います。
梅毒トレポネーマ抗体は梅毒に特異的な抗体で、TPHA、TPLA、FTA-ABSなどさまざまな手法があります。また、非トレポネーマ脂質抗体は梅毒に特異的ではないものの、梅毒の活動性の指標となる検査です。わが国では事実上、RPR法のみが利用可能で、梅毒血清反応検査といえば、本抗体検査を意味し、健康保険上もこの検査を指します。
この2つ抗体検査を行い、いずれも陽性の場合は梅毒の感染を意味します。梅毒トレポネーマ抗体が陽性で、RPR法が陰性の場合は、極めて感染初期か、感染後に抗菌薬で治療した後と判断されます。さらにRPR法が陽性で、梅毒トレポネーマ抗体が陰性の場合は、感染初期か、梅毒以外の原因による生物学的偽陽性と判断されます。もちろん、梅毒トレポネーマ抗体もRPR法のいずれも陰性の場合は感染している可能性は極めて低くなります。
世界標準治療が可能に
梅毒は抗菌薬で治療することができます。一般的にはペニシリン系抗菌薬が有効です。現時点では耐性も極めてまれで、十分な治療効果が期待できます。ペニシリンアレルギーなどで使用できない患者さんでは、マクロライド系抗菌薬も有効です。しかし、十分な治療期間が必要で、最低でも1か月以上は抗菌薬を服用する必要があります。
症例によってはRPR法で治療効果を確認しても十分な効果がみられないこともあります。そのため、一昨年からわが国でも1回の注射で確実な治療効果で得られるステルイズ水性懸濁筋注240万単位シリンジが臨床使用できるようになり、世界標準の梅毒の治療が可能となりました。
梅毒の患者数の増加はおそらくこれからも続くと思われます。治療可能な感染症ですが、適切に治療しなければ長期に及んでさまざまな臓器に障害を起こす疾患です。特に若い世代の女性には、正しい情報を伝えて、感染予防に心がけることが最も大切と思います。
感染症キャッチアップは毎月10日にMed Peerに掲載されている「Dr.前﨑の感染症Catch-Up!」の記事を転載しています。
埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 教授
医学博士
長崎大学医学部を卒業後、呼吸器内科、感染症内科で臨床および研究に従事。現在は埼玉医科大学病院で感染症の診療と院内感染対策を主な業務とし、学生や研修医の教育も行う。日本感染症学会の理事や厚生労働省の審議会などの役職も務める。
専門は内科学、感染症学、感染制御学、呼吸器感染症